会長室の書棚から


このページでは、日本歯科大学校友会・歯学会室内の会長室の書棚に置かれた書物を随時紹介していきます。

new!(2016年9月27日:『中原泉 全 医の小説集』更新)


書籍リスト(タイトルをクリックするとその書籍が表示されます)

中原泉 全 医の小説集2016.6
一口坂下る2014.9
浮世絵にみる歯科風俗史1978.3
現代医歯原論 ─歯科医師へのアプローチ─1979.11
現代医歯診療圏─Grenzgebietの構図1981.1
中原 泉 直言集1983.4
フォシャール探求1986.2
歯科医学史の顔1987.9
中原 泉 直言集U1988.6
麻酔法の父ウェルズ1991.1
中原市五郎の『日本食養道』1995.4
歯の人類学2003.4
生きて還る2008.7
リンダの跫音─医の小説集2011.11




中原泉 全 医の小説集


中原 泉 著

中原泉 全 医の小説集

 新刊ではあるが新作ではない。既刊の「医の小説集」三冊,「生きて還る」「リンダの跫音」「一口坂下る」を一冊に纏めたものである。中短編14話からなる「医」の世界。あらためて全話を通読すると,今まで見えてこなかったものに気づかされる。
 医学が医術であり,また呪術であった時代から現在まで,人間は死に抗うことはできない。多くの作品で登場人物はあっけなく,または足掻きながら死んでいき,作者は決して手を差し伸べることはない。しかし冷酷さはそこにはなく,あくまでも冷静に客観的立場で物語を紡ぐ中原泉(いずみ)がそこにいる。冷静な客観的立ち位置をとるということは,小説家として物語をコントロールするに,必要不可欠な要素であることは理解できる。でもそれだけではない。その位置,その目線は,医家としての矜持に裏付けられたものだからこそ,登場人物たちを見守る温かい眼差しこそあれ,冷酷さは微塵もないのだ。そこに通底するものは,逆説的な「生命」讃歌と言っても過言ではない。加えて,その目線に慈しみ深い父性さえ感じる。もちろん「生きて還る」第1話の「胸部外科病棟の夏」にインスパイアされたからではなく,多くの作品(「金木犀の咲く頃」,「一口坂下る」「舞う子」などなど)からも嗅ぎ取れる作品共通の香りだ。もちろん中原泉(せん)先生として学長職に就かれているということは,全学生の“父”でもある訳で,それもまた宜なるかな。
 今回刊行にあたって,新たに挿入されたカットもまた,貴重なものばかりである。

「中原泉 全 医の小説集」,是非通読をお勧めします。きっと皆さんも何かを感じ取れることでしょう。中原泉(いずみ)先生,新作もぜひ!

●出版社:テーミス 定価3,780円 2016年6月出版 四六判上製769p
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医の小説集 ─ 一口坂下る


中原 泉 著

一口坂下る

 主人公は現代から過去へタイムスリップしてしまった小林氏のかたりで物語は進行する。「二日目も、ひたすらでこぼこ道を歩く。前を行くキヌが『かかのくち、くさいよ』と独りしゃべりする。辛抱したよと、一晩添い寝した嬶の口臭をこぼす。歯を磨かないのか、進行した歯周病に罹っていた…平成の世であれば、十分に治療できる。飯田橋の歯科大学病院がよぎり、小林の胸に虚しい悔しさがつのる。偶々、生まれた時代によって、人の禍福が異なる。」
このような文章が全編にわたって描かれている。

 読者を異界に引きずり込む筆の腕力は相当強い。その場所は、太田道灌の時代であったり、17世紀アムステルダムの外科医業組合会館の解剖講義室であったりする。医史学という縦糸に、時代によらない普遍な人間の心を緯糸として交叉させている。男の自尊心、品位や沽券に関わる胸の中の描写が秀逸である。

 異次元の面白さに油断して読んでいると、民俗学、歴史学の知見が不意に著され読む者は借景としての教養を要求される。稀有な作家であると思う。

●出版社:テーミス 定価1,620円 2014年9月出版 四六判上製216p
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浮世絵にみる歯科風俗史

中原 泉 監著
新藤恵久・本間邦則 著

歯科医学史の顔

 日本歯科大学歯科医学史料室で収集した大判錦絵(浮世絵)のうち115葉をお歯黒、房楊枝、妻楊枝、楊枝屋、入れ歯・抜歯などに分類し、江戸庶民の日常を歯科に関係する風俗から視覚的に描き出し、伝承する貴重な書物です。江戸中期の浮世絵の創始者とも言える可憐な画風の鈴木晴信から最盛期の寛政年間の妖艶な喜多川歌麿、さらには西洋の遠近法の影響も見られる歌川国貞や渓斎英泉、末期の月岡芳年までその作風の多彩さには驚きます。
 家人がまだ寝ている早朝から鉄漿(お歯黒)をする婦女の姿や房楊枝を商う店の繁盛振りからも江戸の庶民の口腔への関心の高さが伺えます。お歯黒の習慣は廃れ、現在では材料は黒いワックスに変わりましたが、祇園の舞妓が舞妓としての最後の2週間に儀式としてお歯黒を施す習慣が残るのみです。遠くなった江戸に想いを馳せ、鉄漿の材料である五倍子の生育する小石川後楽園や向島百花園をのんびり訪れてみたい。そんな楽しみも与えてくれます。

▼下の各画像をクリックすると拡大します。
●出版社:医歯薬出版 定価21,000円 1978年3月発行 A4判変形156p
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現代医歯原論 ─歯科医師へのアプローチ─

中原 泉 著

現代医歯原論

 医歯二元論に至る生々しいドキュメンタリードラマを、多方面にわたる豊富な資料に基づく評論で100年の昔を今に甦らす。
当時の医師組織の傲岸たる排他意識と、新時代を切り開かんとする歯科医師の情熱が衝突する。
 一元化への三つの方策を検討しつつも、二元論に対する抵抗を諦めざるを得なかった当時の経緯が時間を追って詳らかにされる。
 歯科医師免許、教育機関、呼称、歯科医師法等、現代につながる多くの問題点の淵源を、海外の事例も紹介しつつ丁寧に解説する。
 終章においては「かくあれ、われら歯科医師」として医療人としての歯科医師の存在理由を説く。
 医歯格差を始め種々の閉塞感を抱く歯科医師への解説書としては勿論のこと、一般教養としても特筆すべき歴史書。 

●出版社:書林 定価5,000円 1979年11月出版 A5判216p
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現代医歯診療圏 ─Grenzgebietの構図─

中原 泉 著

歯の人類学

 冒頭の手術室での場面では歯科医師の免許でもここまでできることを再認識した。
 医歯二元制度における人体組織での『GRENZGEBIET(境界領域)』を、過去の事例も挙げ膨大な資料のなかから医科・歯科(口腔外科)それぞれの立場から分析する。
 著者の口腔外科への思いが伝わる一冊であると感じた。
 歯科医師、特に口腔外科に従事される方には、歯学史としても特記すべき一冊ではないか。

●出版社:書林 定価5,000円 1981年1月出版  A5判224p
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中原 泉 直言集

歯の人類学

 著者が不惑の歳を迎えた昭和50年代の歯科界について、同時代人に警鐘を鳴らすため発表された15編が収録されている。
 明治時代の法制化による医歯二元制度については、医師も歯科医師も医療の目的には変わりは無いと述べ、口腔外科を巡る医科との領域問題も取り上げ、歯科医療は歯科ではなく口腔科であるという認識を持つ必要があると提言している。さらに、歯科医師過剰問題についても様々な角度から言及している。出版から四半世紀以上経過した今でも、著者の直言は色褪せてはいない。

●出版社:書林 定価700円 1983年4月出版 B6判171p
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フォシャール探求

中原 泉 著

フォシャール探求

 近世歯科医学の父と呼ばれる18世紀のフランス人フォシャールについては、大正12年欧米留学から帰国した中原實先生が初めて本邦に紹介した。
 中原先生がパリで買い求めたフォシャールの2巻の初版本「外科歯科医、もしくは歯の概論」は、その後乞われるままに貸し出しているうち行方不明になってしまった。

 本書は、著者がそれから60年ののち幻の初版本を入手し、すでに所蔵していた第2版に加えて、第3版、独訳本を揃え、パリ大学の図書館に出向いて生原稿を閲覧し、パリ郊外にあるフォシャールが晩年まで過ごした館をも訪れ、実像を追ったフォシャール探求の3年間にわたるドキュメントである。

 

●出版社:書林 定価5,000円 1986年2月発行 A5判254p


歯科医学史の顔

中原 泉 著

歯科医学史の顔

 16世紀「近代解剖学の祖」ヴェサリウスに始まり、近代歯科医学に連なる足跡を残した偉人を年代順に紹介する。
1840年の米国「ボルチモア歯科医学校」を創立したハイデンとハリス以降、歯科医学各科が分岐し、今日でも大きな影響力を及ぼしていることが示される。
 我が国については、血脇守之助と中原市五郎の2氏を取り上げているが、前者については執筆を森山徳長氏に依頼し、客観的な人物論を期している。
 本書での圧巻は、二部作として都合75ページを費やして収載している「麻酔法のはじまり」の部分。
地獄絵図のようであった外科手術を、平穏で冷静、確実なものに変えた麻酔法は、人類に計り知れない福音をもたらした。
その発見者として認知されたいウェルズとモートンの2名の米国人歯科医師を始めとする4つ巴の争いでは、この2名が悲劇的最期を迎える事になる。
特許の申請、欧州も巻き込んだ学会での評価、議会でのロビー活動等、その経過を克明に伝えている。
 医学における知的所有権の問題は現代にも連なり、多くの示唆を与える。  

●出版社:学建書院 定価3,990円 1987年9月発行 A5判272p
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中原 泉 直言集U

中原 泉 著

中原泉直言集2

 前書の同時代人に告げる「直言集」に続く5年間の26編が収録されている。
 「歯科の未来を考える」では、未来は過去の延長線上にある。21世紀の歯科界を展望する時、昭和61年より前15年間の軌跡を当時のトピックスを挙げ説明し、今何をすべきか、を問うている。その第1は患者さんが受診しやすい歯科医療の確立、第2は口腔外科をめぐる問題、第3は歯科医師数の問題について言及している。

 その他、歯科界への様々な提言が述べられ、歯科医師は誇りを持って取組める仕事であり、今後も高度先進社会にあって、専門職としての歯科医師への要求度は増しこそすれ、決して減ずることはないであろうと結んでいる。

 

●出版社:書林 定価850円 1988年6月発行 B6判154p


麻酔法の父ウェルズ

中原 泉 著

麻酔法の父ウェルズ

 麻酔法は医学史上最大の発見である。1844年12月11日米国コネティカット州ハートフォードで開業歯科医師Wellsは笑気ガスを用いた世界初の吸入無痛法による抜歯を成功させた。しかし翌年1月のハーバート大学医学部の公開手術では笑気の吸入不足などから失敗とみなされ、ペテン師の汚名を着せられた。1年9ヶ月後、開業歯科医師Mortonが硫黄エーテルを用いてハーバート大学医学部の公開手術で成功すると、その成果は瞬く間に全世界に広がった。ここから吸入麻酔法の発見者について様々な評価が生まれた。
 誰が世界で初めての吸入麻酔をしたのか。著者は探究心に動かされ、その歴史の現場を丹念に訪ね、取材する。歴史の真実の証明の貴重な足跡である。同時に歴史は必ずしも事実の積み重ねではないという言葉の意味を読者は知ることになる。周囲に起こる特許権取得の動きなどに翻弄され、関係者の証言は食い違ってくる。社会が、時が、評価を変えていく。 この本は謎解きの楽しさも与えてくれる。Wellsが麻酔法を発見した1844年12月11日午前10時、診療所に居たWells,Riggs,Coltonのうち誰が麻酔をかけたのか。その答えは史上初の吸入麻酔医を決定することにもなる。食い違う証言や資料の分析から真実が見えてくる楽しみがある。それにしても研修を受けた歯科医師が病院で全身麻酔をすることが裁判になる日本の現状は不可思議である。

●出版社:デンタルフォーラム 定価4,500円 1991年1月発行 105p


口腔保健ブックレット2
中原市五郎の『日本食養道』

中原 泉  解説

中原市五郎の『日本食養道』

 昨今あらゆる面で食生活の重要性が論じられマスコミなどでも取り上げられている。中原市五郎先生の『日本食養道』は戦前より『歯科医師は食物の良否を鑑別する義務と責任を有す』と言う先見の明をもとに研究を積まれた書であり、昭和初期に於ける一般日本人の食生活を見ることのできる興味深い一冊であります。現在我々の日常に於ける食生活とも相違を考えることもでき、時代を先駆けた先生の先見性を学ぶことのできる一冊です。

●出版社:風人社 1995年4月出版 78p


歯の人類学

中原 泉 著

歯の人類学

  「歯は退化しているか」、「最初に生える永久歯の謎」、「なぜ生える方向がわかるのか」、「咬合様式の変化と矯正治療」、「顎は大きくなっているか」等の章からなる著者50冊目の本書は根源的な問いを実証的な、大局的なメスさばきで解剖、分析し、再構築していく。一見狭い口腔の中から世界の状況変化を読み取り、人類の過去からその行く末に想いを巡らす。誠に壮大な思考の軌跡である。読み手の先生方によってそれぞれ異なる未来予測が自然と脳裏に浮かぶ一冊ではないでしょうか。

●出版社:医歯薬出版 定価1,890円 2003年4月出版 B6判変形180p
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生きて還る

中原 泉 著

歯の人類学

 1962年に同人雑誌「文学街」同人となり、純文学の魔境を放浪。1970年に筆を絶ち、35年後の2005年にふたたび筆を執り、2008年、遅れてきた純文学作家としてデビューした、日本歯科大学理事長・学長の中原泉が織成す、病人と医療の情景が見事に描かれた、実体験を基にした医療ミス三部作『胸部外科病棟の夏』、『生きて還る』、『一掬の影』。江戸の時世、流行病は悪霊か?キクの逃避行『逃げる』。同じく江戸は文政年間の曲亭(滝沢)馬琴の嘆き『空蝉の馬琴』。科学と文学の融合を篤とお楽しみください。

●出版社:テーミス 定価1,575円 2008年7月出版 四六判上製214p
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医の小説集 ─ リンダの跫音

中原 泉 著

現代医歯原論

☆リンダの跫音
 イギリス人の女性 リンダ・シンプソン(看護婦)が イザベラ・バードの足跡をたどり、日本での生活を描いている。
イザベラ・バードは 実在のイギリス人女性であり、旅行作家。1880年に 「日本未踏の地」という旅行記を執筆している。
リンダの跫音は、リンダ・シンプソンが、イザベラ・バードの本に心を打たれ、当時未開の地であった日本で、看護婦である自分が何かできるのではないか、と、大きな志を抱いて日本を訪れた、という設定である。
会津、藤野村に滞在し、医療を施しながら当時の日本人の生活を、リンダが藤野の人々に医療を施している様子を描いている。
文章はとても歯切れがよく、読みやすいもので、1880年代の日本の様子がよくわかる。また、金髪で大柄な外国人女性であるリンダを、日本人の藤野村の人たちがだんだんと受け入れていく様子がとても興味深い。
この「リンダの跫音」には、短編が他に3編、書かれている。その中のひとつ

☆市振の芭蕉
 市振は、現在の新潟県糸魚川市にある。
芭蕉が訪れ、奥の細道に 一家に遊女もねたり萩と月 とよんだ場所である。
その俳句をよんだ環境、その当時の遊女の様子、旅籠の有様が興味深い。

☆金木犀の咲く頃
 この短編は、他と打って変わって、現代版。
それも、サイエンスフィクションである。
江戸時代からやってきた妊婦と、天然痘の子ども。
不思議な世界を醸し出している。

☆一茶哀れ
 小林一茶の50すぎからなくなる65歳までを描いている。
はじめの妻との間に、1女3男を授かったが、どの子も2歳まで永らえなかった。
この時代は、乳児の死亡率が高かったので、そんなに珍しいことではなかったようだ。沢山の素晴らしい俳句を残した一茶だが、家族には恵まれなかった。
早くに妻と死別し、後妻が一茶との間に女の子を産んだが、その子を見る前に一茶は他界した。この短編も文章のキレが良く、とても読みやすい。 

●出版社:テーミス 税込定価1,575円 2011年11月出版 四六判上製291p
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